ホテル収益におけるスペース活用戦略

ホテル収益におけるスペース活用戦略

概要

近年、宿泊施設の経営において、客室の稼働率だけでなく、いかに建物の空間全体を有効に使うかが、収益を上げる上で鍵となっています。これまでのように、ただ宿泊料金だけに頼るのではなく、会議や宴会を開く場所、食事を提供する場所、お酒を楽しむ場所、体を動かす場所など、ホテルの中のあらゆる空間から収益を得る工夫が必要とされています。

そこで、建物の空間全体をどれくらい有効活用して収益を上げているかを示す指標として「占有面積あたり収益」が注目されています。これは、ホテル全体の収益を、実際に使われている空間の広さで割ることで計算できます。この指標を見ることで、ホテル全体の空間の使い方がどれくらい効率的かを評価することができます。

例えば、同じ広さの空間を持つ二つのホテルがあったとします。片方のホテルは客室の稼働率は高いものの、他の施設はあまり使われていません。もう片方のホテルは客室の稼働率は少し低いものの、会議室やレストランなどを多くの人が利用しています。この場合、後者のホテルの方が「占有面積あたり収益」は高くなる可能性があります。

このように、「占有面積あたり収益」を向上させるためには、それぞれの空間の用途を工夫したり、時間帯によって異なるサービスを提供したりするなど、限られた空間から最大限の収益を引き出す戦略が求められます。例えば、昼間は会議室として貸し出し、夜は宴会会場として利用する、といった工夫が考えられます。また、宿泊客以外の人にも利用してもらえるような魅力的なサービスを提供することで、より多くの収益を生み出すことができるでしょう。具体的には、地域住民向けの料理教室や、近隣の会社員向けのフィットネス会員などを提供することで、ホテルの空間をより有効に活用し、収益の向上につなげることができます。

計算方法

客室料金単価を上げる戦略だけでは、収益を最大化できない場合があります。なぜなら、ホテル全体の面積効率を考慮していないからです。そこで、客室料金だけでなく、ホテル全体の収益性を見る指標であるROPS（Revenue Per Occupied Space占有スペースあたり収益）が重要になります。ROPSは、ホテルの収益力を測るための計算方法で、とても単純です。ホテルの総収益を占有スペースの総面積で割るだけです。

総収益には、客室料金はもちろん、館内レストランや喫茶店、酒場、会議室の利用料、売店、その他ホテル内で発生するすべての収益を含みます。客室料金だけに捉われず、ホテル全体でどれだけ稼げているかを把握することが大切です。

占有スペースには、収益を生み出すために利用されているすべての空間を含みます。客室だけでなく、飲食店や宴会場、ロビー、売店など、ホテル内で収益に貢献しているすべての面積を計算に入れます。例えば、ホテル全体の面積ではなく、実際に収益を生み出している部分だけを計算対象とするということです。

具体的な計算例を挙げましょう。総収益が１億円、占有スペースが5000平方メートルだった場合、ROPSは１億円 ÷ 5000平方メートル = ２万円/平方メートルとなります。

ROPSを定期的に計算し、過去の数値と比較することで、ホテルの経営効率の推移を分析できます。また、競合他社の数値と比較することで、自社の空間活用状況を客観的に評価し、改善点を見つけることも可能です。ROPSは、ホテル経営の効率性を高めるための重要な指標と言えるでしょう。

活用事例

客室稼働率と平均客室単価を組み合わせた指標、客室売上高指標（ＲＯＰＳ）は、収益改善のための戦略立案に役立ちます。この指標をうまく活用すれば、様々な方法で利益を増やすことができます。具体例をいくつかご紹介しましょう。

まず、会議室の活用方法を見直すことで収益を向上させることができます。会議室の配置や机、椅子のレイアウトを工夫することで、より多くの参加者を受け入れることができます。収容人数が増えれば、１回の会議あたりの利用料金も増え、結果として収益向上に繋がります。

次に、飲食店の営業時間やメニュー内容を工夫することで、これまで利益の少なかった時間帯の収益を改善することができます。例えば、ランチタイムとディナータイムの間の時間帯は、お客様が少ない時間帯です。この時間帯限定の特別メニューを提供したり、カフェとして営業することで、新たな顧客層を取り込み、収益を伸ばすことが期待できます。

さらに、ロビーや共有スペースを有効活用することで、新たな収益源を生み出すことも可能です。例えば、ホテルオリジナル商品や地元の特産品などを販売する売店を設置したり、展示会や講演会などの催し物を開催することで、ホテルを訪れる人々に新たな価値を提供し、収益の増加に繋げることができます。

このように、客室売上高指標は単なる数字を見るためだけの指標ではありません。ホテル経営における様々な局面での判断を助ける強力な道具と言えるでしょう。この指標を参考に、それぞれのホテルの特性に合わせた戦略を練り、実行することで、更なる収益向上を目指せるはずです。

改善策

収益性向上のためには、まず現状把握が不可欠です。具体的には、それぞれの場所が生み出す収益や、使用頻度の低い場所を分析し、改善点を明確にする必要があります。

例えば、使用頻度の低い宴会場を地域住民に開放することで、新たな利用者を取り込むことができるかもしれません。会議室や研修室として貸し出したり、地域のサークル活動の場として提供したりすることで、収益増加だけでなく、ホテルの知名度向上にも繋がることが期待できます。また、地域のイベントを開催するスペースとして提供することで、地域貢献にも繋がります。

客室の料金設定も見直しの余地があります。需要に応じて価格を変動させることで、収益を最大化できる可能性があります。週末や祝日など需要の高い時期は料金を高く設定し、平日は料金を低く設定することで、稼働率の向上を図ることができます。さらに、早期予約割引や連泊割引などを導入することで、より多くの利用者を取り込むことも可能です。季節ごとのイベントに合わせた特別プランなども効果的でしょう。

その他にも、ホテル内のレストランやカフェのメニューを見直し、魅力的な料理を提供することで、ホテル内の飲食による収益増加も見込めます。また、宿泊客向けのサービスを充実させることも重要です。例えば、無料の朝食サービスや、近隣の観光情報を提供するコンシェルジュサービスなどを導入することで、顧客満足度を高め、リピーター獲得に繋げることができます。

これらの取り組みを通じて、ホテル全体の収益構造を多角的に分析し、最適な経営戦略を立てることが重要です。収益性向上のための指標は、ホテル経営の羅針盤となるでしょう。常に指標を意識し、現状を分析することで、更なる収益向上を目指せます。

将来展望

近ごろの宿泊施設運営において、収益を最大化するための方法として、ROPS(客室収益管理システム)の重要性が増しています。技術の進歩とともに、ROPSの活用方法は今後ますます広がっていくと予想されます。

例えば、あらゆる物がインターネットにつながる技術を活用した感知器を用いることで、客室や宴会場、レストランといった施設内の空間の利用状況を瞬時に把握することが可能になります。どの場所に人が集まっているか、どの施設が空いているかといった情報をリアルタイムで入手することで、迅速な対応が可能になり、顧客満足度の向上に繋がるでしょう。また、人工知能を用いて将来の需要を予測することで、より効率的な施設運営が可能になります。過去のデータや現在の状況を元に、最適な客室料金や販売戦略を立てることで、収益を最大化できるだけでなく、無駄な経費も削減できるでしょう。

さらに、仮想空間を活用した新たな収益源の創出も期待されています。仮想空間上にホテルを再現し、宿泊体験を疑似体験してもらうことで、集客に繋げたり、仮想空間内でのイベント開催や商品の販売など、現実世界とは異なる収益モデルを構築することも考えられます。ROPSは、変化の激しい宿泊施設運営において、他社との競争に勝ち抜くための重要な要素となるでしょう。

これからの宿泊施設運営において、ROPSは単なる指標ではなく、経営戦略における意思決定を支える重要な道具として、より注目を集めることになるでしょう。時代の変化に柔軟に対応しながら、ROPSを最大限に活用するための工夫を凝らし続けることが、宿泊施設の安定した成長にとって欠かせません。絶えず市場動向を分析し、最新の技術を取り入れながら、ROPSの精度を高めていくことが、将来の成功へと繋がるでしょう。

まとめ

客室一室あたりの収益を表す指標「客室稼働率あたりの売上高」、略すると「稼働売上高」は、ホテル経営の成功を左右する重要な要素です。この指標は、ホテルの収益性と効率性を向上させるための道しるべとなるものです。計算方法は、ホテルの総売上高を販売可能な客室数で割るだけという大変シンプルなものです。にもかかわらず、ホテル経営における様々な戦略立案に役立ちますので、ホテル経営に携わる者にとっては必須の知識と言えるでしょう。

稼働売上高を理解し、適切な対策を実施することで、ホテルの収益を最大限に高め、持続的な成長を実現できるはずです。例えば、稼働売上高が低い場合には、客室単価を上げる施策が考えられます。宿泊料金の見直しはもちろんのこと、付加価値の高い宿泊プランの提供なども効果的でしょう。また、レストランや宴会場などのホテル内施設の利用促進も、稼働売上高を向上させる有効な手段です。

稼働売上高は、ホテルの経営状況を様々な角度から分析する際に役立ちます。例えば、競合ホテルとの比較分析を行うことで、自社の強みと弱みを明確に把握することができます。また、過去のデータと比較することで、売上高の推移を把握し、将来の経営戦略を立てる上での重要な判断材料を得ることができます。

近年のホテル業界は、旅行者の多様化やオンライン予約の普及など、変化の激しい状況にあります。このような市場環境に適応し、競争力を維持するためには、稼働売上高を積極的に活用し、戦略的なホテル経営を実践していくことが必要不可欠です。稼働売上高は、今後のホテル経営において、ますますその重要性を増していくことが予想されます。稼働売上高を深く理解し、現状を的確に分析することで、適切な対策を立案し、実行していくことが、ホテルの持続的な成長を実現する鍵となるでしょう。